旅をする中で純粋な楽しみとはなにか。
私ならこう答える—-メシだ。
異国の風に包まれながら食べるメシは、時としてそれそのものが至上の思い出となる。
その日はラオスのルアンパバーンに向かう飛行機に乗るため、バンコクのドンムアン空港近くに宿を取っていた。
慌ててチェックアウトは済ませたが、フライトまでまだ余裕はあるようだ。
ふと安心すると途端に体が空腹感を訴えてきた。
こういうときは安い・早い・旨いでお馴染みの屋台メシで一つ手を打とうじゃないの。
バンコクという街は屋台文化が根付いており、どこであっても屋台や安食堂というのはあるものだ。
一食が大体100円〜150円もあれば十分。
ビールを一本付けても250円あればいいのだ。これはたまらない。
いつだって旅人には優しい値段ということも、タイが多くの旅人に愛される理由の一つだろう。
そして何と言っても、うまい。
大体頼むものはいわゆるぶっかけメシか、炒めた麺のパッタイだ。
注文を通すと目の前で(まぁ屋台だから当然だが)調理が始まる。炒める音と立ち上る香りが心地よい。
調味料を加えてさらにジャッジャッと軽快な音がフライパンから鳴れば、完成。
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バックパックを背負って宿を出る。一つ二つと道を曲がった先で目に入った。
いくつかの屋台、つまりそれは選択肢が増えるということ。
米にしようか、いや、麺にしようか。
米ならチャーハンも手だし、麺ならスープでズゾゾッといくのもよい。これは参った。
選択肢が多いことは嬉しいと同時に辛いことでもあるのだ。
スープ麺を出す店に、パッタイを食わせる店、そして・・・おや?
珍しくカオマンガイらしい屋台があるじゃないの。そう言えば久しく食べてないなぁ。
よし、今日はコイツだ。
店員と目が合いお互いニコリ。美味しい食事は笑顔から始まる。
「これはカオマンガイか?」
「そうだ、カオマンガイだ」
「よし、ならば一つもらおう」
運ばれてきたカオマンガイは美しかった。
ご飯と鶏肉を、パクチーと共に口に運ぶ。
鶏肉はほろりと解けて、ふうわりとした米と混じる。そこに加わるパクチーの風味は刺激的だ。
隣に添えられたきゅうりは瑞々しく、箸休め(正確にはフォーク休めだね)に嬉しい。
別添えのソースをちろりとかければ辛味がアクセントとなり、箸が止まらない(正確にはフォークが止まらないだね)。
気がつけば、ペロリ。
会計は40バーツ、約140円というのだからちょっと嬉しい気分になる。
背負い直したバックパックは重いが、足取りは軽く、空港へと向かったのだった。
ごちそうさまでした。