(2010/06 香港の街並み)
まだ日が照りつける前の午前中、暑くなった午後の日差しを避けたカフェ、静かな部屋で一人ゆったりとした夜。
長距離の鉄道に乗っている時間、フライト中。
【旅本】ではそんなときに読みたいオススメの本を、自分の経験と交えながら紹介する。
旅に出たくなる、あるいは旅がもっと楽しくなる、かもしれない。
今回紹介するのは、「深夜特急」(沢木耕太郎著)。
文庫本で全六巻、インドからロンドンまでを乗合バスで行くという酔狂な真似をする若者・沢木耕太郎さんの旅のお話。
各国の文化や景色といった外面を表現するだけでなく、自身の葛藤や悩み・喜びなどの内面への描写が溢れている。
推理小説などのようなストーリー展開はないが、ロンドンというゴールに近づいていく様子は自分も旅をしているよう。
いや、このとき確かに自分はロンドンまでを旅したのかもしれない。
読後は旅をしたくなってたまらなくなる。それはきっと、「また」旅に出たいという気持ちに限りなく近いと思う。
当時大学一年生で、春休みを利用して台湾を一人旅していたときのこと。
台北のゲストハウスに身を寄せていて、ドミトリーが同室の日本人から暇なら読んでみたら?と渡されたのが「深夜特急」だった。
第一巻香港・マカオ編で(インドではない)、香港とマカオの熱が文章を飛び越えて身体の芯に届き、身震いしたことを覚えている。
帰国後、一目散に本屋へと入り全巻を貪るように読み、空腹時にたらふく食べた後のような満腹感を得たが、同時に「飢え」も知ってしまった。
(ちなみに、どの巻も好きだけど一番は?と聞かれれば思い出の分だけ第一巻に軍配が上がる)
三年後、ようやく一年間のバックパッカー生活へと飛び込み何度も読み返した「深夜特急」の舞台へと足を運ぶ。
本に書かれている、かつて旅した地名や通りが出てくると、それだけでも楽しくなってくるし行きたくなってくる。
実際に泊まったのが、香港の「重慶大厦(チョンキンマンション)」だ。もっとも、作中に出てくる宿はもうなかったけれど。
変わっているところもあれば、変わっていないところもある。そういったことに気が付いたとき、別の世界に足を踏み入れたような気がする。
今でも読み返す「深夜特急」だが、読むたびに発見があって
台湾の頃に読んだ言わば旅人幼年期の頃の気持ちまで思い出すと、ふと笑みが溢れてしまう。
当時「すげー!」と思っていたことを自分がやってしまっているのだから何とも言えぬ恥ずかしさと、誇らしい気持ちが湧いてくる。
自分の旅をしっかりとできるようになったということもあるだろう。
「深夜特急」に飛び乗ったと思いきや、いつの間にか下車していたことに気付く。
さて、「深夜特急」を読むにあたり、旅をする前・旅の間・旅の後という三つのタイミングがある。
それぞれ感じ方や受け取り方が変わってくるので、各タイミングで読むのが一番楽しめるだろう。
きっと前回とはまるで別の読み方をしていることに驚くに違いないから。
多くの若者をバックパッカーへと変え、今尚魅了し続けるバイブル「深夜特急」。
一度読んでみてはいかがでしょう。オススメです。
※全六巻の各内容は以下の通り。
—-
深夜特急1 香港・マカオ 編
深夜特急2 マレー半島・シンガポール編
深夜特急3 インド・ネパール編
深夜特急4 シルクロード編
深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海編
深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン編
—-
ちなみに、ドラマ化もされていて大沢たかおさんが主演しています。