バンビエンという小さな町がある。ラオスの首都ビエンチャンから北に約3時間半ほどの距離にある。
この町が嫌いだった。ただし、それは他のバックパッカーから聞いた話で判断したものだ。
「多くのバックパッカーが集まり、一日をハッパと酒と爆音のミュージックで過ごしている」
ラオスの印象は平和で静かなルアンパバーンしかなかったために、その話はとても衝撃だったことを覚えている。
同時に、「大好きなラオス」が自分の中からなくなってしまいそうで怖かった。
だから8年前に初めてラオスを訪れた際にも素通りしたし、その後も足を運ぶことはなかった。
つまり、今回がバンビエンには初めての訪問だ。
あれだけ避けていたのになぜ?と言われると、時間を経て「ラオス」の輪郭が出来上がったからなのかもしれない。
あるいは、単に移動上都合がよかっただけということも考えられる。
(バックパッカーの持つ哲学なんて、大抵「その場所・モノに呼ばれたから」で片がつくのだ)
期待半分、不安半分という心持ちで入ったバンビエンは想像とは異なっていた。
特に、ここ数年の韓国人旅行者の急増に伴ってガラリと雰囲気が変わった(らしい)街並みにはハングルが溢れ、コリアンBBQの店が立ち並ぶ。
ある種の居心地の悪さを感じながらも、逆にほっとしたのも事実だ。
騒がしさはあるものの、そこにはバックパッカー特有の退廃的な雰囲気というものがなかったからだ。
それでも、深夜までクラブ・ミュージックは鳴り響き、外で旅行者の話し声が止むことはなかった。
バイクに乗って少しでも中心部から離れると、すぐに田舎の風景が広がる。
自然に囲まれた未舗装道路を進む。エンジンと砂利道を走る音だけが耳に届く。
風を全身で受けながら、今、ここにいるんだぞと叫びたくなった。
この道はどこまでも続いていて、ずっとこんな日々を最期まで送るんだろうとふと感じた。
ブルーラグーンというスポットにて。
ここは天然のプールのようで、観光客のみならず地元民も訪れる。
昼間は非常に暑いから、水に入ったときの体が軽く痺れるような心地よさがたまらないのはみんな同じ。
海水のようにベタつかないのもいい。
ざぶんと入って、竹でできた浮島に横たわってぼーっとして。
またジリジリと暑くなったら水に入る。
透明度が高く、魚が泳いでいるのも水上から確認できる。
濡れた体は陸に上がって5分もすればあっという間に乾いてしまうので、地元の子供達は服のまま遊んでいる。
子供達と同じように、僕ら旅行者もはしゃいでいる。その声だけが辺りを満たす。
町に戻れば、食事をする場所には困らない。
屋台にローカル食堂、ちょっとしたレストランまで。
そこで腹を満たしたら、宿に帰る。
きっと宿のスタッフらが既に飲んでいる。そこに混ざって一本、また一本とビールを空けていく。
なんだ、バンビエン。いいところじゃないか。
そう独りごちりながら。また一日滞在が延びていく。