旅をする中で純粋な楽しみとはなにか。
私ならこう答える—-メシだ。
異国の風に包まれながら食べるメシは、時としてそれそのものが至上の思い出となる。
エジプトはシナイ半島、紅海に面している町、ダハブ。
実に7年半ぶりとなる滞在だ。前回は2ヶ月ほどいたように記憶している。
この町の最も素敵な過ごし方を教えよう。
それは、「何をしよう」などと考えながらぶらりと歩くこと。
海があって、風があって、ゆったりとした空気に覆われている。
そんな小さな町で焦ることはないのだ。
何もしない日々に対する言い訳はさておき。
この日はダハブの中でもエジプト人を相手にするような、つまりローカルなエリアを散歩していた。
目的は行きつけのカフェに行くためだ。
カフェ、なんて言い方をすれば洒落て聞こえるが、その実オッサンどもがシーシャとお茶を飲んで喋っているだけの場所。
そこに混じって、同様にシーシャを吸い、お茶を飲むのだ。私もまた、オッサンだ。
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到着した頃には、太陽が高く昇っていた。
そう、飯時。空腹。
カフェではサンドイッチを出すけど、今日はそういう気分ではないんだよなぁ。
いっそのこと、食堂でテイクアウトしちまうか?
・・・いや、違った。
コシャリって手があるじゃないの。
向かった先はカフェから10mほど離れた屋台。
屋台とは言っても、小さなカートのような簡素なものだ。
おっちゃん、コシャリ一つおくれ。
辛さは控えめ、フライドオニオンマシマシね!
店主が屋台中央にある大鍋の蓋を開ける。
もわぁと湯気が視界を塞ぐ。然るのちにやってくるのはたっぷりのトマトソースとその暴力的な匂い。
ご飯の入った容器にトマトソースを。
レモン汁。スパイシーソース(少なめ)。
そして、フライドオニオンをどっさり。
注文してからわずか15秒。
エジプトの国民食、コシャリ。
今日はこいつで腹を満たしてからお茶とシーシャだ。
カフェで席を取り、早速頂く。
スプーンでさっくり混ぜて、口に運ぶ。
フライドオニオンの香ばしい風味。トマトソースの旨味。レモンの爽やかさにちょっぴりの辛さ。
何より、ほうと一息つける優しい味わい。
見た目は地味だっていうのに・・・やるじゃないの。
ご飯は米だけではなく、スパゲッティとマカロニ、さらに数種の豆も混ざっている。
「炭水化物の塊」と言ってもいい。
だけど、異なる食感がこれまた楽しくてどんどん食べ進めてしまう。
こういう無骨な感じ、実に国民食らしい感じがするよなぁ。
気がつけば、ペロリ。
お値段25ポンド。大体150円といったところか。
この値段もまた、国民食たる所以なのかもしれないな。
では、引き続きお茶とシーシャを楽しみますか。
ごちそうさまでした。