デリーから北に約650km。ヒマラヤ山脈内の標高3500mに位置する小さな町、レーが今回の舞台だ。
町にはいわゆるインド系の人々はもちろんいるが、それ以上にチベット系の人たちの姿が目につく。
ここはチベットと(正確には中国だけど)国境を接する地域なのだ。
そのため土産物を見てもチベット色が強かったり、チベタンレストランが多く存在している。
今回ここを訪れるつもりはなかった。
だけど、デリーの宿で飲んでいるうちに行こうと決めてしまった。
飲み始めたのが22時過ぎ、チケットを買ったのが時計の針が3時を指そうとしたあたり、
フライトが朝6時を越えた頃となかなかにいい旅をしている。
経緯としては飲んで酔って行き過ぎたノリの結果なのだけど、行きたかったし面白いからオーライ。
(お前らほんと許さん)
町を歩いていてもインドらしからぬ雰囲気。
今までいたインド体験が何も重ならない、別の国を訪れたのではと思うほどに異質。
だけど、居心地は抜群。
朝晩は涼しく、昼間は暑い。暑ければ陰に入れば途端に涼しい。
カラリとした天気の中を歩くのはとても気持ちがいい。
ましてや、絶景が360度どこでも広がっているならなおさらだ。
レーの王宮、シャンティ・ストゥーパ・・・見所はいくらでもある。
だけど、必ずしもそこに行く必要はないのだ。
そう言えるくらいに、レーは素敵な町。
インド旅行で疲れた旅人、チベット文化を味わいたい人、たまたま呼ばれた人。
誰にでも等しく綺麗な空と澄んだ空気で迎えてくれる。
一つだけ、レーを訪れたら足を伸ばして欲しいところがある。
中国との国境を跨いで大きな湖があることを知っているだろうか。
名前をパンゴン湖(パンゴンツォ)という。
ここはインド映画「きっとうまくいく(原題:3 idiots)」でロケ地にも使用されたことで有名だ。
ローカルバスかツアーで行けるのだけど、とにかくまずは道中の移動を楽しんでもらいたい。
山を越えて行くのだけど、途中は標高5000mにも達するのだ。
そこで取る休憩の不思議なこと。
酸素が薄く頭はボーッとし、夢心地の気分。
気温もだいぶ下がり、温かいチャイをすするのだ。
今でも本当に夢だったのではというくらいには朧げだけど、温かかった記憶だけはしっかりと残っている。
道中の景色は、もちろんだけど綺麗。
吸い込まれるような青空で遠くの際まで見通せる場所はなかなかないだろう。
写真の、山に線が入っているような場所が車道だ。
ここで対向車とすれ違う。いつ片輪が崖におちるかと冷や汗が出てしまう。
色々な意味でドキドキが止まらないドライブだ。
思い出される「きっとうまくいく」のラストシーン。
映画さながらの絶景が視界を埋め尽くし、静かに風が頬を撫でる。
遠くに、来たな。そう実感せずにはいられない。
旅には、遠くしかないのかもしれない。
近くと遠くをどう区分するのかと言えば、感覚でしかないけれど。
だけど、旅をするということはそれまでの自分を離れることだから。
きっと、どこに行っても、遠くにきた感覚を持っているのだと思う。
そして、それができる限りにおいて旅人なのかもしれない。
湖のほとりでテント泊。
意外と中は快適で、冷たい風が強く吹く中でもしっかりと寒さをしのげる。
ただし、シャワーは水だけだから翌朝にお湯をもらうか我慢するしかない。
パンゴン湖の標高は4000mだから、頭は少しだけ痛む。
今度見た夜空も、朝焼けも、こればかりは夢ではないと言えるよ。
それだけ綺麗で、ひどく現実的な風景だった。
ヒマラヤの大地が、あるいは人に神秘的な体験をもたらすのかもしれない。
その人に必要な「何か」を与えてくれる、そんな不思議なことが、ここレーにはあるのかもしれない。