「今まで行った中で、ラオスが一番好き」
と言うと、大体
「何があるの?」
と返る。
いつも答えに窮してしまう。
だから正直に答える他ないのだ、気の利いた言葉はなくたっていい。
「何も無いよ、だけど、なんでもあるよ」
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中国の昆明から寝台バスで26時間、初めての陸路でのボーダー越え。
ルアンパバンは、ラオスの古都だ。街全体が世界遺産に登録されている。
メコン川とカーン川に挟まれている一帯にはゲストハウスが立ち並び、
目抜き通りでは夜毎にナイトマーケットが開催される。
朝はゆっくりでいい。行きつけの屋台で朝昼を兼ねてサンドイッチとシェイクを。
昼はうだるような暑さ。宿に戻るか適当な木陰を見つけて本を読むかビアラオを。
夕方になってようやく気温が和らぐと、学校へ行く。日本語学校で先生の真似事をしていた。
夜は学校の先生たちと安い食堂で済ませる。盛り放題ビュッフェが100円だった。
そのあとはナイトマーケットを馴染みの店員と雑談しながらぶらついてもいいし、宿に戻って静かにビアラオを飲むのもいい。
ただそれだけ。観光地である滝に行ったりもするけれど、たまに、それも他の旅人からの誘いを受けてだ。
現地の友達もずいぶんとできた。行動範囲が日に日に広がっていった。ルアンパバンの人と空気に触れていく中で、好きなことが一つずつ増えていった。
結局、2泊する予定だったところが3週間となった。
穏やかな人とゆるやかな空気はとても居心地がよくて、ずっといようかと本当に考えた。
信号すらない街には、何もないけれど、それでも充実する時間を過ごすための全てがあった。
当時の日記にはこう記してある。
『ルアンパバン、いいとこ。
いいとこだから、離れたくないけど、いつか行かなきゃね。それがきっと今なんだ。
思い残したことも、伝えたいことも、全部バックパックに詰めて。』
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今再び、ラオスを訪れている。
当時と変わらぬルアンパバンの匂いは、すっと胸の中に入ってくる。
まるで、「おかえり」と言ってくれているようだ。
相変わらず何も無いようだけど、相変わらず僕もここが好きだ。